自営の地質調査技術者 渡邊良夫 yupauta2013@gmail.com http://www.egeo-jp.com/ https://www.facebook.com/yoshio.watanabe.1272 https://www.youtube.com/channel/UCl8RTBofvJNU7NyZmR2zwAw
今回の原発事故で、はっきりと現れた、東電と学会、マスコミ、官庁の関係。
2009年の応用地質学会誌の巻頭言、東京大学の六川教授の危惧が現実になりました。
そのまま引用掲載します。

応用地質,第50巻,第4号,201頁,2009

「研究」と「研究事業」の狭間で

社団法人物理探査学会会長
東京大学大学院工学系研究科教授
六川修一
巻頭言の原稿執筆時は,折しも衆議院議員選挙の真っ最中である.本文が皆様の目に触れる頃には,政権の
行く末が決まり,新政権が科学技術に重点を置いた政策を行ってくれることを願っている.
さてこの数箇月,政府系の研究公募案内が毎日のようにメールで送付されてきている.一説には,政権を失
うかもしれない自民党の「焦土作戦」の一環とも言われている.これらは,額が小さいものでも数千万円,大
きなものでは数十億円の一般公募である.たかだか数百万円程度の科学研究費補助金や民間助成金で慎ましく
研究活動を行っている普通の大学人には目の玉が飛び出るような高額である.ここで挙げた一連の研究公募は,
そのほとんどが重点分野を促進するための研究事業であり,国家としての戦略的投資である.
長年,零細企業の親父のようにわずかながらの研究費の工面に四苦八苦してきた立場からすれば,たいへん
ありがたい施策のようにも映るが,反面,たいへん心配でもある.実は「研究事業」とは「研究」が形容詞で
あり「事業」がその主体である.r研究」とは失敗するのが当たり前で,それを糧にしてまた明日をめざす趣
味に近い類いのものであるが,「事業」とは綿密に計画され,必ず成功し一定の成果を出さねばならない実務
なのである.つまり,事業は研究の本質とは正反対の性質を持つ活動であり,大学人のような研究者が最も苦
手とするものである.このようなうがった見方は偏向しているという意見もあることは重々承知しているが,
なぜ,この例を持ち出さざるを得なかったかと言えば,この種の事業の乱発は,大学人にとって麻薬のような
ものであると思えて仕方がないからである.
研究事業では,提案した内容に沿って着実に成果を出すことになっている.このため,実務に携わる割合の
高い若い研究者が重圧を感じっっ,所定の成果を出さねばならない.研究公募では,何とか採択されるように
応募時に得られる成果をオーバーコミットしがちであるため,必死にっじつまを合わさざるを得なくなる.こ
こに,忌まわしい研究の掟破りの芽が生じてくる.
一方,「研究事業」を提案した側,一般に各省庁の役人ということになるが,こちらも官僚の習い性として
事業は必ず成功しなければならないものとされている.したがって,事業の事後評価では,成果にやや難があ
る事業でも局所的成果を必要以上に大きく見せて,事業全体が成功したシナリオに導く.つまり,r灰色」は
じっと見つめると「白」に見えてくるというわけである.こうなるまで事後評価は続けられる.
かってのノーベル賞の端緒を見れば,その大部分は引き出しの下の研究,すなわち,「事業」ではなく,好
きで好きで仕方がないのに許可してもらえないのでこっそりやったものである.高温超伝導などはその顕著な
一例である.
以上,私の偏見の入った話を書いたのは,皆さんに研究の本質を理解していただきたいと思ったからである.
私は,基礎に近い研究の9割,応用研究でも6割は失敗して当たり前であると考えている.しかし,この失敗
とは,次の成功に向けての確実な糧となるものであることは保証できる.これが私が考える研究の健全な姿で
あり,研究の成果とは,失敗の歴史を論理的に記述し,まとめたものであると言っても過言ではない.
現在,大学や研究所において研究者,とりわけ若手の研究者が苦しんでいる.ポスドク,任期付採用の繰り
返しで落ち着いて研究する環境が得にくくなっているうえに,上述した「研究事業」でのオーバーコミットメ
ントに苛まれている.東京大学の例では,将来を嘱望された研究志望の学生が颯爽と研究に邁進し,結婚して
子供もできたが,30半ばで任期が切れ,それが奥さんの実家に知られるのがいやで,本郷地籍(東京大学の所
在地)にある会社で非正規として働いているという泣くに泣けない話まで聞こえてくる.
地球や自然を相手にする科学・技術では,網羅性を担保することが困難でかつ検証不可能な事例も多く,断
定的な成果を得ることは難しい.研究とは,想定したようにはならないから「研究」なのである.このことを
是非皆さんに理解していただきたいという思いが募る今日この頃である.

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渡邊良夫_Yoshio Watanabe

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神奈川県川崎市
Engineer on Geology
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